【舞踊団公演】カルタヘネーラ・救いのない結婚
Los picaros tartaneros
un lunes por la mañana
Los picaros tartaneros
Les robaban las manzanas
a los pobres arrieros
que venian de Totana
悪党のタルタネーロが
月曜日の朝
トターナから来た
貧しいアリエロから
リンゴを盗んだ
アレグリアスとカラコレスがカンティーニャという同じグループに属する仲間のように、
タラントと同じカンテ・レバンテ(鉱山の歌)というグループに属するカルタヘネーラ。
伝右衛門に嫁いだ白蓮は、いよいよ九州は炭鉱の町に降り立ちます。
伝右衛門はかなりの艶福家だったようで、
あっちにこっちに、かなりの数の妾、愛人がいましたが、
白蓮との結婚が決まり、全ての女との手を切ったとのことでした。
白蓮はそう聞いていました。
ところが、着いた先の伝右衛門の家には、女中頭として内縁の妻・サキが住んでいて、
妻=家の女主人の仕事というものは、全部、サキが取り仕切っていました。
「あなたは何もしないでいい。ゆっくりと、のんびりしてていい」
と言われて喜ぶのは、普段忙しくしていて、寝る間もなく疲れている人です。
そうでなければ、何もやることがないのは苦痛です。
それも、1週間やそこらならまだしも、これからずっとだと思うと、
長い残りの人生の時間をどう消費すればいいのか、途方に暮れてしまいます。
そして、誰にも必要とされず、何の役にも立てず、
「華族」との親戚関係を結ぶ為だけに、ただ嫁として家にいてくれればいい。
と言われるのは哀しいことです。
白蓮は東京を離れ、九州の地に足を踏み入れた時に、
「金で買われた可哀想な花嫁」
という想いを振り切り、
知らない土地で、人生の再出発を図ろうと希望を胸に抱いていました。
伝右衛門を慕い、伝右衛門に愛され、彼の子を産み、
幸せな家庭を築こうと思っていました。
でも、そこには実質上の妻であるサキがいた。
家の中を取り仕切り、伝右衛門に対して、内助の功を発揮するのはサキだった。
白蓮には、「華族のお姫様」という肩書しかなかった。
白蓮の視点でいうと、サキは白蓮から、
妻として当然受けるべきものを全て盗んでいった女です。
「伝右衛門の妻として家のこと諸々を取り仕切る生活は、
忙しく大変だろうけど、さぞ充実していることだろう」
と、力を持て余した白蓮は思います。
そして、
「何もない私から何もかも盗んでいったあの女」
とサキに嫉妬します。
カルタヘネーラの歌詞の意味を知った時、
悪党のタルタネーロは、
何も貧しい人からなけなしのリンゴを盗まなくてもいいのに、
何て救いのない哀しい歌なんだろうと思いました。
恵まれた家柄に生まれた白蓮ですが、
白蓮の視点で見れば、
貧しいアリエロは白蓮で、悪党のタルタネーロはサキになります。
白蓮は「血筋の良さしか持たない、何もない、ちっぽけな人」で、
サキは、「伝右衛門の愛も、皆からの人望もある恵まれた人」した。
前の演目のタンゴのところで、
伝右衛門は無神経にも、サキが肩に掛けていたマントンを取り上げ、白蓮にプレゼントします。
そのマントンは、かつて、伝右衛門がサキに贈ったものでした。
サキの泣きながらの抵抗もむなしく、サキの思い出のマントンは白蓮の肩にかかります。
そのマントンを見ながら、白蓮はサキに想いを馳せます。
「サキは伝右衛門の愛しか持たない。
視点を変えてみれば、サキから伝右衛門を奪っていく人と、
サキの周囲の人たちは私のことをそう見ている。
私は悪党のタルタネーロなのね。
本当はタルタネーロはサキで、私はアリエーロなのに…」
と哀しい気持ちになります。
救いのない2度目の結婚の始まりを、
マントンを使ってカルタヘネーラで表現します。
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